Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「ぱんたれい」同人

橘夏生『セルロイドの夜』の、好きな歌10首

「短歌人」の橘夏生さんの第三歌集、『セルロイドの夜』。六花書林、2020年。

 

巴里のふゆ書割りめきて羞(やさ)しきを睫毛に雪をためしリセアン

 

朱(あけ)の甍に雲すぎゆきぬサンタ・マリア・デル・フィオーレに春を残して

 

雨の朝上海に死すことのほか希ひはあらず過ぎし日おぼろ

 

昼の湯に浮かびし思惟は離れがたしたとへば閔妃暗殺について

 

かがやける夕雲のはてわれはまだ原子力の顔をみたことがない

 

下京区天使突抜(てんしつきぬけ) 雪晴れのさんぽはクノップフの豹をおともに

 

春雷のとどろきに須臾みゆるべしわが飼ひ殺しの金閣銀閣

 

パプリカの種抜きをへてキッチンは洋書売り場のやうにさびしい

 

トルソーの不在の首のかがよひをおもふまで碧き海に出でたり

 

うつしよに在るかなしさよ木枯らしのなかにジャングル・ジムは毀れず

 

 

おびただしい数の固有名詞が登場する。藤原龍一郎さんの<世界とは時代とは数限りなき固有名詞の羅列にすぎぬ>という歌を思ったりした。「デカダンスとイノセント」をテーマに、時代や国境を軽々と飛び越えながら、紡がれてゆく歌の数々。

 

セルロイドの夜

セルロイドの夜

  • 作者:橘 夏生
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: 単行本