Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「ぱんたれい」同人

橘夏生『天然の美』の、好きな歌10首

「短歌人」の橘夏生さんの第一歌集、『天然の美』。雁書館、1992年。

 

羅(うすもの)をまとへばつねに身になじむわたくしといふ存在はこれ

 

なだらかな雲の波なすアルペジオわがために来し夏ぞとおもふ

 

性愛なぞに誰が惹かれる湯の底でわがくるぶしがうすく光れば

 

悦楽の悦といふ語に兄といふ文字みつけたる夏のいもうと

 

わが身につけられしごといつしか馴染めり地下道のコンクリートの創(きず)

 

何事か崩壊しつつあるらしきターン繰り返す午後のスウィマー

 

かくて美貌の夏は来たれりまはだかの孔雀を愛でるタマラ・ド・レンピッカ

 

人形にも猫にも自らの名をつける麗はしき幽閉の王子は

 

わが裡に破船の絵ありときをりは腐蝕すすめる筆をくはふる

 

詩歌なべてわれの頬殴つ鋭さに欠けて今宵みるルドンの<眼>

 

 

歌集の前半は、主体像がはっきり立ち上がってくるような歌が多い。後半では、栞の井辻朱美さんの言葉を借りると、「固有名詞一個を石としてはめこんだ指輪のようにきらびやかな歌」が中心になってくる。