Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「ぱんたれい」同人

てのひらの重ねるための平たさの夜は兵士のように立つ樹々(大森静佳)

てのひらの重ねるための平たさの夜は兵士のように立つ樹々(大森静佳)

 

 大森静佳さんの第一歌集、『てのひらを燃やす』(角川学芸出版、2013年)より。連作「硝子の駒」の中の一首。恋人同士が実際に手を重ねている場面をイメージした。お互いの手を見つめながら、手のひらが平たい形に作られているのは、ひょっとしたら誰かと重ね合わせるためなのかもしれない、と主体は思う。窓の外に目をやると、夜の暗やみの中で樹々が「兵士のように」立っていた。さっきまで水平な手のひらへと思いを馳せていたこころに、垂直にそびえ立つ物言わぬ樹々の、不思議な存在感が突き刺さってくる。

 二人だけの時間を過ごしているときに、何かの拍子に自分たちのことを一歩引いた、第三者的な視点から客観的に捉えなおしてみる、ということはあると思うし、そのときのなかなか言葉にしにくい、軽い違和感のようなものを歌にしているのではないだろうか。兵士のように立っている樹々は、まるで遍在する神の視点のようでもあり、二人を外的な世界から静かに守ってくれる存在のようでもある。 

新版 歌集 てのひらを燃やす (塔21世紀叢書 第 330篇)

新版 歌集 てのひらを燃やす (塔21世紀叢書 第 330篇)