Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「西瓜」「ぱんたれい」同人

一首評

俺はどこに行こうとするの開け閉めを重ねた金庫のように無口で(大橋弘)

俺はどこに行こうとするの開け閉めを重ねた金庫のように無口で(大橋弘) 大橋弘さんの第三歌集、『既視感製造機械』(六花書林、2020年)より。「開け閉めを重ねた金庫のように無口」とは、いったいどういうことだろうか。金庫はとても大事なものを入れるた…

てのひらの重ねるための平たさの夜は兵士のように立つ樹々(大森静佳)

てのひらの重ねるための平たさの夜は兵士のように立つ樹々(大森静佳) 大森静佳さんの第一歌集、『てのひらを燃やす』(角川学芸出版、2013年)より。連作「硝子の駒」の中の一首。恋人同士が実際に手を重ねている場面をイメージした。お互いの手を見つめな…

短歌人さんを読む①

『短歌人』の歌の一首評を少しずつ、時間の許す範囲で書いていこうかな、と思います。気長にお付き合いいただけましたら……。 塩で炒めただけのキャベツをつまみつつ水仙みたいな夢想に浸る/千葉みずほ 「水仙」「夢想」とあると、ギリシャ神話のナルキッソ…

<一首評>服部真里子さんの短歌より

雪柳てのひらに散るさみしさよ十の位から一借りてくる(服部真里子) 第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房、2018年)より。雪柳は、春に小さな白い花を咲かせるバラ科の植物である。また、下句の「十の位から一借りてくる」というのは、小学校で習った…

<一首評>初谷むいさんの短歌より

エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ /初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』 ちょっとした遊び心で、エスカレーターを「えすか」と略して呼ぶ。でもそれは二人だけにしか通じない特別な呼び方。長い「えすか」を…

<一首評>杜崎アオさんの短歌より

すうべにあすべての川を渡りゆく記憶のひとつひとつに黄砂 (杜崎アオ) 『うたつかい』29号(2017年9月発行)掲載の一首。一読してすぐに意味がとれるタイプの歌ではないし、歌の意味を詳細に解釈しようとする読み手の姿勢さえも、この歌にはあまりふさわし…

<一首評>法橋ひらくさんの短歌より

猫のいる団地のなかを突っ切って帰る 違うわ、米買うんだわ (法橋ひらく) この歌は先日、早稲田大学戸山キャンパスで行われた、法橋さんの歌集『それはとても速くて永い』の批評会で配布された記念冊子に、新作「アパート」13首として掲載されていた中の一…

<一首評>『短歌人』2016年5月号掲載分

濯ぎ物に冬の日の差すひるつかた泣きたいやうな無音がみつる (小島熱子) 洗濯や他の家事などの午前中の作業を終え、ふと窓の外に干した洗濯物を見遣る、という場面だろう。冬の弱い日差しが、真っ白な洗濯物を通すことではっきりと可視化される。それと同…

<一首評>服部真里子さんの短歌より

行くあてはないよあなたの手をとって夜更けの浄水場を思えり (服部真里子) 歌集『行け広野へと』収録。父親が一つの大きなモチーフである一連、「行け広野へと」の中の一首だが、ここでの「あなた」は父親ではなく、作中主体の恋人、もしくはそれに準ずる…

<一首評>大森静佳さんの短歌より

これでいい 港に白い舟くずれ誰かがわたしになる秋の朝 (大森静佳) 歌集『てのひらを燃やす』に収録された一首。「秋とあなたのゆびへ」というタイトルの連作の中の一首目の歌で、同じ連作中には他にも、<つばさ、と言って仰ぐたび空は傾いてあなたもいつ…