Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「西瓜」「ぱんたれい」同人

『あみもの』第二十号を読む③

前回までの記事に引き続き、『あみもの』第二十号を読みます。

過去分のリンクも貼っておきます!

『あみもの』第二十号を読む① - Ryo Sasagawa's Blog

『あみもの』第二十号を読む② - Ryo Sasagawa's Blog

 

眠るとき壁を背にするその癖が右脳ばかりを育てて二十歳/真島朱火

 

「眠るとき壁を背にする」というのは、体の右側を下にして横向きになり、背中はぴったり壁につけて寝る……というイメージで合っているだろうか。たしかに、血が右脳の方にいきそうな気もするけれど、そうすることで右脳の方が育つということは本当にあるのだろうか、という疑問が残る。しかし、科学的根拠や理屈を無視したこのような発言(歌)こそ、いかにも感性豊かな右脳派の人という感じもして、面白い。

 

一年ののちに生まれた(または死んだ)感情たちの搭乗ゲート/小俵鱚太

 

「搭乗ゲート」という場所への注目がすごいと思った。手荷物検査等を済ませ、搭乗ゲートをいざ通る瞬間は、誰でも多少は緊張するだろう。その普段より背筋が伸びる一瞬の間に、いつもは意識下にある様々な感情(プラスの感情だけでなく、もちろんマイナスの感情も)が図らずも顕在化してしまうような感じが、歌から伝わってくる。

 

まひるまにまず流れるのが夜道での不思議なダンスが浮かぶあの曲/エノモトユミ

 

2009年にフジファブリックのライブに行ったときのことを描いた連作の中の一首。「夜道での不思議なダンス」みたいな曲って何かあったな……と思ってYoutubeで検索してみたら、あった。「銀河」という名前の曲。懐かしい。たしかに、この曲が真昼の風光明媚な場所で流れ出したら、だいぶ異様な空気が漂いそう。

 

この暑さ汗をかいても足りなくて消火器は赤いペンギンになる/屋上エデン

 

あまりに酷い暑さに対する体の生理的な反応として、汗をかくだけではおさまらず、視覚までおかしくなってしまうような感じ。「消火器は赤いペンギンになる」は荒唐無稽なことを言っているようでありながら、よく考えると消火器とペンギンのフォルムは似ているし、少しでも涼しくなることを願うこころが、寒い場所に暮らすペンギンの幻を見せたのかもしれない。

 

気だるげな字さイラついた旨記し眠たい辛い匙投げるだけ/澪那本気子

 

一首の中の漢字にはすべてルビが振られ、<けだるげなじさいらついたむねしるしねむたいつらいさじなげるだけ>と、回文になっている。回文短歌をまとまった数読んだのは今回が初めてかもしれない。ただでさえ、定型という縛りがある短歌を、さらに回文に仕立てるという制約だらけの中、一首として意味が取れて、なおかつそれが連作として並んでいるということに驚いた。掲出歌も、回文短歌という形態を用いて、恋愛の一場面を細かく描いている。