流動 笹川諒
青空にブローチの針を刺すような痛みのことをうまく言えない
自然体を意識するほど最寄り駅のサイズはいつもと違って見える
梅雨の月 水に近づく生き方と遠ざかる生き方とそのほか
十四、五年を滴らせつつやって来るから亀って夢の中ではこわい
美術館のトイレで白髪を抜いたときほんとうに増えそうな気がした
窓越しのうっすら青い水差しもかつて手札にあったはずだよ
その問いの答えをシンコペーションと知りつつ黙っていた夏の庭
あなたの詩は最後にいつもお辞儀する そこから真似をしたいと思う
(「短歌人」2021年8月号掲載)