「短歌人」の内山晶太さんの第一歌集、『窓、その他』。六花書林、2012年。
思い出よ、という感情のふくらみを大切に夜の坂道のぼる
観覧車、風に解体されてゆく好きとか嫌いとか春の草
みずからを遠ざかりたし 夜のふちを常磐線の窓の清冽
忘れたい 夕の鏡のまぶしさに両眼を押しあてて 忘れたい
自販機のひかりのなかにうつくしく煙草がならぶこのうえもなく
新宿に雨脚しろくメンデルとメンデルスゾーンの違いについて
分かり合うという幻想の絶景に胸ひらきおり桜花のごとく
いちにちにひとつの窓を嵌めてゆく 生をとぼしき労働として
あなたもいつか泣くのであろう少女期の日々の祭りのなかのあなたに
壊れそう でも壊れないいちまいの光のようなものを私に