Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「西瓜」「ぱんたれい」同人

『あみもの』第二十号を読む①

御殿山みなみさんが発行されている『あみもの』第二十号に、「渡ってしまう」11首で参加させていただきました。折角なので他の方の掲載作品を読みつつ、感想を少しずつ書いていこうかと思います!

 

飼育員脱出したある日中 ふとなつかしむチキンラーメン/笛地静恵

 

塚本邦雄の<日本脱出したし 皇帝ペンギン皇帝ペンギン飼育係りも>の歌を踏まえた歌だろう。脱出後、チキンラーメンを懐かしむというのが謎だけれど、もしかしてチキンラーメンを飼育していた動物に餌として与えていたということなのだろうか……?「いまのむかしばなし」という小題が付された連作の中の一首で、SF的な世界観の歌。

 

可愛くて筆箱に入れてあるだけの書きにくいペンくるくる回す/たかはしりおこ

 

筆箱の中に、筆記具としての実用性は乏しくても、可愛いからとか、特別な思い出があるから、といった理由で入れっぱなしのペンがある、というのはよく分かる。そもそも筆箱のサイズ自体、人によって結構ばらつきがあって、最低限必要な物しか入れておかないという人も多いだろう。そんな中「可愛いけれど書きにくいペン」を持ち歩いている主体には、何だか好感が持てる。

 

後悔が突き出している、こちらからお開けくださいという顔をして/たろりずむ

 

突き出している口をうっかり開けてしまうと、それ以降はおそらく、延々と後悔にさいなまれることになる。とはいえ、開けてはいけないことを頭では分かっていながらも、主体はついついその袋を開けてしまうのではないだろうか。こころの中で理性と感情がせめぎ合う様子を、「こちらからお開けくださいという顔」という具体的なイメージを用いて描いているので、読み手に心情がよく伝わる歌だと思う。

 

もうあなた失ってしまう予感して茶碗の水音高くする夜/一ノ瀬礼子

 

茶碗の水音を高くするというのは、食器を洗うときに水道の水を勢いよく流すということだろうか。それは、ふと感じた「失ってしまう予感」をかき消すための行為であるかのようだ。また、勢いよく蛇口から流れ出る水は、主体の「あなた」に対する溢れんばかりの想いも彷彿とさせる。「茶碗の水音高くする」という繊細な表現に惹かれた。

 

妻と子を実家に帰しキムチって無限にご飯食べられますな/袴田朱夏

 

別に、家族が一緒にいてもキムチの味自体は変わらないはずなのに、一人の自由を満喫していると五感(味覚)も何だかいつもより研ぎ澄まされてくるような、そんな感じ。自分で食事の支度をするのが面倒で、キムチをおかずに簡単にご飯を済ませているというのも、リアリティがある。「~ますな」という口調もコミカルかつ自由な時間を楽しんでいる雰囲気が伝わってきて、面白い。