私家版の歌集を購入したのは、宇野なずきさんの『最初からやり直してください』に続き、二冊目。twitterに流れてきたナイス害さんの短歌が面白くて、もっと読んでみたいと思い購入しました。跋文で雪舟えまさんが「すべて読み終えたあとにはナイス害ワールドで暖かくもてなされた余韻があるのでした」と書かれていて、まさにそういう読後感の一冊でした。以下、特に好きな歌の感想です。
・せんべいチョコせんべいチョコせんべいチョコと交互に食べる まだ午前中
これを毎日やったら健康面からもさすがにまずいけれど、このくらいの自由な選択が常に可能だということは心に留めておきたい。
・新品のチョークとチョークをぶつけると近近未来の夏のおとずれ
チョークとチョークをぶつけると「キン」と音がして、たぶん割れる。その音はまるで映画のカチンコの音のようで、夏のシーンがこれから始まる。
・柿チョコの旬は一月なんだよね 四季折々の甘味を愛す
この歌みたいに作者の心の豊かさが伝わってくる歌は、読んでいて楽しいし、自分でもこのお菓子の旬はいつだろうとか考えてみたりしたくなる。
・さようなら そーらーぱわーで手を振ってくれる雑貨のようなきみの手
「そーらーぱわーで手を振ってくれる雑貨」はおそらく実用性は全くなくて、それこそ恋人からのプレゼントとかお土産にもらったりするようなものだ。物としての価値がその機能にではなく存在そのものにあるという点において、「きみ」と「そーらーぱわーで手を振ってくれる雑貨」は共通している。切ない歌。
・幽霊の気分で橋の欄干に立てば今夜もキャラメルの風
現実から少し距離を置くことで、いつもより鋭敏になる五感。「キャラメルの風」は本当のキャラメルのにおいではなくて、キャラメルっぽい何か他の物のにおいがする風だろうか。「キャラメルの風」というメルヘンっぽい言葉に不思議なリアリティがあって、何だかワクワクする。