Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「西瓜」「ぱんたれい」同人

宇野なずき『最初からやり直してください』

宇野なずきさんの歌集『最初からやり直してください』を読みました。twitterでたまたま、宇野さんの<誰ひとりきみの代わりはいないけど上位互換が出回っている>を読んで、もっと他の短歌も読んでみたいと思ったのがきっかけでした。

 

 

・貝殻がなくても貝の仲間だし血が出なくても傷付いている

 

 

目に見えているものだけが、全てではないということ。宇野さんの短歌はネガティブな角度から鋭く飛んでくるように見えて、実はその裏には、世界がもっと優しさや慈しみに満ちたものになればいいのに、という強い願いが込められていると思う。

 

 

・この狭い部屋で観葉植物も声も枯らしたことがあります

 

 

一人の人間なんて、ちっぽけな存在かもしれないけれど、その中に、すごく野蛮な部分や慎ましい部分がないまぜになっているんだよ、というそれこそまさに叫びのような歌。

 

 

・いつもより少し豪華な弁当が半額で嬉しいな 死にたい

 

 

スーパーでちょっといい感じの弁当が半額で、一瞬喜ぶ。もっと他のことで喜びたかったのに、不覚にも喜んでしまった自分への容赦のない視線。三大欲求の中でも食欲が一番詩から遠い、と作者は思っているのかもしれない。

 

 

・しわくちゃの紙幣みたいに生きている 最初からやり直してください

 

 

機械にとって紙幣は、読み取れる/読み取れないのどちらかでしかない。今はまだ読み取れないくらいしわくちゃかもしれないけど、人生まだまだこれから!、とかはなくて、読み取れないくらいしわくちゃならば、最初からやり直すしかないのだ、と機械から宣告されてるようで、怖い。

 

 

・新作の泣ける映画で泣いているこれはどういう罰なのだろう

 

 

身体の自由ではなく、感情の自由が奪われてしまった。色々な不如意に満ちた世の中で、唯一といっていいほど自由を保障されている個人の感情。だからこそ、作者はその感情の自由が一瞬でも揺らぐ瞬間に、きわめて敏感なのだろう。

 

 

以上、特に好きな歌でした。『最初からやり直してください』は、普通の本屋には残念ながら出回っていないようですが、↓のサイトから通販で購入できます。ぜひ!

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