松野志保さんの歌集『Too Young To Die』。滋賀県立図書館から、地元の図書館に取り寄せてもらいました。おおざっぱに言うと、「二人の青年の物語」というモチーフが、時代やシチュエーションを異にしながらひたすら変奏されてゆく歌集、と言えるかもしれません。僕が今回この歌集を読みたいと思った大きな理由は、「文体」です。松野さんの短歌は基本的に口語ベースなのに、すごく格調高い、というかカッコいいんです。文体の研究(というと大袈裟だけれど)が、最近のマイブームな気がします。以下、文体の話とは別に関係なく、特に好きな歌です。
・光あれ よろめきながらぼくたちが越えたあまたの分水嶺に
「分水嶺」は、乗り越えてきた困難にも、選び取ってきた選択にもとれる。そのすべてに祝福が、光がありますように。
・この夜の少しだけ先をゆく君へ列車よぼくの血を運びゆけ
「血」という語が想いの強さや、生々しさ、痛みのメタファーとなっている。「列車」が『銀河鉄道の夜』的な世界を創り出していて、歌の意味解釈を越えた次元での美しさがある。
・天空より見れば美しい的ならむ弓なりの肢体晒す列島
葛原妙子さんの<他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水>を踏まえた歌だろう。日本列島のフォルムとエロスを結びつけるという着想が、すごい。
・変容を待つ繭として傷のない皮膚の上にも包帯を巻く
「傷のない皮膚の上にも包帯を巻く」がヒリヒリする。
・どこへ往くことも願わぬふたりには破船のようにやさしい中庭
「中庭」のルビは「パティオ」。この歌を含め、東郷雄二さんの「橄欖追放」では、松野さんの短歌がセカイ系と絡めて論じられていて、とても興味深いので、ぜひ。
「松野志保歌集『Too Young to Die』書評:砕け散った世界に生きる二人の少年の物語」
http://petalismos.net/tanka/tanka-column/column8.html