「短歌人」の小島熱子さんの第四歌集、『ぽんの不思議の』。砂子屋書房、2015年。
透明な傘がわたくしをむき出しのままに庇護して 三月の雨
「むき出しのままに庇護」という一見矛盾したフレーズが印象的。雨を防ぐために傘をさすのだが、その傘は私を完全に守ってくれるものではない。たとえ心の支えや拠り所のような存在があったとしても、完全なものなどどこにもないのだという、生のリアルさを感じた。
かぎろひの春の団地に白木蓮三本咲きぬ 何も削がれぬ
先ほどの歌のように、完全なものなど何もないように見える世界の中で、この白木蓮の開花によってわれわれは何一つ損なわれるものがない、という。常に事物を多面的に観察する作者の姿勢がよく見える歌。
たまかぎるほのかに残る雨の香にもしかして邃きところに来る
そのように物事の表層と深層、過去と現在、今風にいうと異なる時間軸の平行世界のようなものを多面的に捉えてゆくうちに、邃いところ、生の本質へと意識が赴く。この歌集を読んだ感想がまさに、この歌の「もしかして邃きところに来る」だった。
ああまるで手紙のやうな朝のかぜ木綿のストールふるはせて過ぐ
菖蒲湯に凜き菖蒲の香のしるくああいつからか子は二児の父
埴輪の目をしたるをみなが日の暮れに青きぶだうを配達に来ぬ
ひえびえとスターサファイア耀きてゆるせぬひとりのあるといふこと
三人寄り金沢弁のゆきかへばさびしき記憶もカノンのごとし