ひとしきり記憶は荒み湯の中の手は翌日の雨の音する(高良俊礼)
去年今年朝にはパンとミルクティーこころのうちの短き祈り(冨樫由美子)
願わくは現役のまま死にたいと明るく語る暮れの中華屋(いばひでき)
見たことのないやや低い標識を見終える前にバスは進んだ(浪江まき子)
眠いとき耳朶に触れくる子の癖を書きおくりたり入院のまへ(桃生苑子)
顔も覚えてない人が私に怒っているらしくなにかが満たされていく(山川創)
町並みを飲み込んでゆく夕やみにわたしの顔が振り向いている(鈴木秋馬)
食い逃げは多分しないまま死ねるかな してみたい気も少しするけど(髙橋小径)
焼きそばパンなのにベーコン入ってるパンそんなパン持たせてくれた(山本まとも)
履歴書の行の隙間に埋もれたる闇を掬いてささやかに抱く(真中北辰)
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