手をつなぎゆつくり進む子とふたり紋白蝶に追ひ越されをり(桃生苑子)
考えの差し出し方のうつくしいあなたの真似で五月を抜ける(相田奈緒)
犬をイヌ用キャリーで運ぶ人がいていつもより強くつり革を持つ(浪江まき子)
乳酸菌一億個 個? 個だそうです 一億個、二個買ってみますか(山本まとも)
丹頂鶴の美しいこと折れそうな足を見てたら恐ろしくなる(佐々木あき)
たったいま舐めたばかりの濡れた毛の質感こそを猫と呼ぶべし(有朋さやか)
一人なら自然な笑いができるのにどうして外ではできぬのだろう(上村駿介)
どこで覚えたか分からぬが座っている私の肩を優しくさする(笠原宏美)
図図算音体国 明日の時間割吟じつつ子がランドセル閉づ(河村奈美江)
ra ra ru あなたが失われた部屋の冷たい床の体育座り(北城椿貴)
アパートの植え込みにさっと入りこむハクビシンを見た 先日も(小玉春歌)
流されていけば何かが見つかると抱かれたままで空(くう)をまさぐる(笹渕静香)
花束はちゃんと綺麗だ貯めていたTポイントで注文しても(鈴掛真)
背表紙に指を掛ければ夏雲がわたしの奥で湧きたつ気配(葉山健介)
にび色の空を押し上げ鼓門金沢駅は”まつり”の前夜(松村翔太)
親兄弟かれにも言えぬことごとを引き受けくれる歌ぞいとしき(真中北辰)
十七の頃に必ず頼んでたコスモドリアを今も食べてる?(古賀たかえ)
せせらぎはひとすじの楽器であった。楽譜は書いたそばから燃えた。(鈴木秋馬)
老犬と老人がまだあたたかい焼き印のように連れ立ってゆく(大平千賀)
海底を散歩している錯覚をそのままにして駅を目指した(天野慶)
際限のあるものとして美しく就活生が日傘をさして(中井守恵)
それぞれの作者の方の、特に好きな一首です!