Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/短歌のことを書いていこうと思ってます。

飯田有子『林檎貫通式』

 『短歌タイムカプセル』(書肆侃侃房)で飯田有子さんの短歌を読んだのがきっかけで、歌集『林檎貫通式』を読みました。この歌集、Amazonでは販売中止になっていて、全国の図書館を探しても、国立国会図書館くらいにしか所蔵が見つからず、なかなかアクセスが難しい歌集のようです。とはいえ、国立国会図書館に一冊でもあれば全国の最寄りの公共図書館から取り寄せて閲覧することができるので、納本制度のありがたみを改めて実感しました。

 

この納本制度ですが、今回ちょっと調べてみたところ、自費出版の本や同人誌等にも適用されるようです。また、発行者本人でなくても、国立国会図書館に所蔵がない資料であれば、「寄贈」という形で受け入れてもらう方法があるとのこと(納本に関する詳細は以下のリンク参照)。

http://www.ndl.go.jp/jp/collect/deposit/qa05.html

 

 

それでは、歌集の特に好きな歌についての感想です(『短歌タイムカプセル』には収録されていない歌から選びました)。

 

 

・新発売のファンタのげっぷしつつみな人工呼吸にあこがれている

 

 

小・中学生くらいの頃、新発売のファンタが出たらとりあえず買っていた、という人も多いのではないだろうか。普段はファンタを飲んでげぷげぷやってるんだけれど、恋愛のこととなると、アニメで出てくる人工呼吸(人工呼吸という名目でのキス)のシーンにどきどきしたり、妄想を膨らませたりしていて、きわめてプラトニックで無垢。そういうアンビバレントな子供時代の感覚が「口」という共通の部位を介して結びついていて、面白い。

 

 

・NOということも面倒だきあえば砂糖焦がした匂いがするね

 

 

好きな人の匂いは、客観的に嗅ぐと(?)、必ずしも良い匂いだとは限らないのだけれど、いつの間にか好きな匂いになっているものだ。その、いつの間にか騙されるかのように好きな匂いになっている感覚が、「砂糖焦がした匂い」という把握にすごくフィットしていると感じた。

 

 

・誰が誰が 冷蔵庫にひゅんひゅんと投げつけられる猫型磁石

 

 

身も蓋もない歌だけれど、冷蔵庫に猫型磁石がどこかから投げつけられていたら、とりあえず「誰が?誰が?」と思うだろうし、「ひゅんひゅん」と磁石が飛ぶ音がして、パチンと冷蔵庫に貼りついていそうである。場面設定のありえなさ以外の部分に妙なリアリティがあって、不思議な魅力がある。まさか猫が投げてるわけじゃないだろうけど、そういう世界の話なのかな、とも思ってしまう。

 

 

・なぜ涙が砂糖味に設定されなかったかそんなの知ってる蟻がたかるからよ

 

 

涙の味を設定する権限を持った、神様とでも言うべき視点が突如提示される。涙の味を砂糖味に設定しておけば、悲しいことがあっても、多少は悲しみを和らげる機能を果たすかもしれない。しかし、神様は蟻がたかることのデメリットと天秤にかけて、涙を砂糖味には設定しなかった。こういう風に言われると、全ての生理現象、というか自然現象に神様の意図が込められているような気がしてきて、そこはかとない怖さがある。

 

 

林檎貫通式 オンデマンド版

林檎貫通式 オンデマンド版