Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/短歌のことを書いていこうと思ってます。

「線香と春」8首

線香と春   笹川諒

 

 

線香と春は親しいのだけれど美味しいパンを買いに行こうよ

 

アパートは三階建てで三階に行かないままに八年過ぎる

 

自分から死ぬこともある生きものの一員として履く朝の靴

 

靴音を鳴らして歩け 春の日の鍵盤はみな許されている

 

花冷えのミネストローネ いきること、ゆたかに生きること、どうですか

 

働いて眠るあなたが今日もまた疲れることがなぜか愛しい

 

京都線からの葉桜 ほんとうは力を抜いている方が好き

 

岐路という言葉は先がありそうで好きな人から届く西風

 

 

※『短歌人』2016年8月号より

 

 

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この連作に大森静佳さんから嬉しい評をいただいたので、合わせて載せさせていただきます。以下、大森さんの評です。

 

自分から死ぬこともある生きものの一員として履く朝の靴

 

出勤のために革靴を履く場面だろうか。冷徹な把握のなかに、なまなましい危うさのある現代的な一首。人間を「自分から死ぬこともある生きもの」と定義し、それ自体はさほど新鮮ではないかもしれないが、結句「朝の靴」への展開が魅力的だ。「一員として」に、社会の構成員としての自己を鋭く意識するような悲哀がある。この一連、日々を生きることへの怖れとささやかな祝福感が、柔らかな口語で詠まれ特に印象に残った。