Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/短歌のことを書いていこうと思ってます。

<一首評>法橋ひらくさんの短歌より

猫のいる団地のなかを突っ切って帰る 違うわ、米買うんだわ (法橋ひらく)

 

 

この歌は先日、早稲田大学戸山キャンパスで行われた、法橋さんの歌集『それはとても速くて永い』の批評会で配布された記念冊子に、新作「アパート」13首として掲載されていた中の一首である。

 

「アパート」自体、良い連作だと思うし、その中から一首優れた歌を選べと言われたら、<寂しいよ寂しくないかと訊かれればこだわりの岩塩で肉焼いてるよ>あたりになるだろうけれど、僕はこの、米買うんだわ、の歌がどうしても気になってしまった。

 

前半の「猫のいる団地のなかを突っ切って帰る」は、ある意味全く無駄のない描写で、小説の一文や短歌にも親和性が高そうな、何というか、コンパクト感がある。読み手は当然、家にまっすぐ帰るのだと思い込み、下の句では、作中主体の心情や、アパートの様子などが述べられるのだろうと予測する。その推測を見事に反転させて、主体は米を買いに行ってしまうのだ。「突っ切って」という直線的な動きをイメージさせる動詞を使うことで、「違うわ」をぶつけた時の衝撃が、より強化されている。

 

関西弁の使用は、法橋さんの短歌の一つの特徴である。<おやすみ こんなん奇麗事やけどみんな幸せやったらええな>のような法橋さんの歌で、関西弁が歌のリアリティを高める働きをしているのと同様の効果が、今回の歌の関西調のくだけた口語でも発揮されているといえるだろう。米を買いに行くというささやかな行為ではあるけれども、それは紛れもない作中主体のリアルであり、予定調和になんて決して従わないぞという矜持とその自由を前向きに味わう心が、この歌からは伝わってくる。

 

 

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この歌に言及してる人が他に誰かいないか探してみたら、当日批評会で司会もされていた、伊舎堂仁さんが評を書かれていました。

https://note.mu/gegegege_/n/n7f75b024f1cc

「日常の不如意さを含め愛する方法を手に入れた〈だれか〉の居姿だ」という言葉が印象深いです。

 

法橋ひらく『それはとても速くて永い』

関西では、大阪府中之島図書館、奈良県立図書情報館の他、

http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026234792-00

京都府京田辺市立図書館、滋賀県東近江市立図書館等にあります。

東近江市立図書館は新鋭短歌シリーズがほとんど揃っていて、羨ましい限りです。以前、中家菜津子さんの『うずく、まる』の取り寄せを近くの公共図書館に頼んだら、東近江市立図書館の本が届いたこともありましたね~。