これでいい 港に白い舟くずれ誰かがわたしになる秋の朝 (大森静佳)
歌集『てのひらを燃やす』に収録された一首。「秋とあなたのゆびへ」というタイトルの連作の中の一首目の歌で、同じ連作中には他にも、<つばさ、と言って仰ぐたび空は傾いてあなたもいつか意味へと還える>といった、抽象度が高くスケールの大きな歌が多い。
まず初句の「これでいい」という、諦念ともとれる作中主体の強い意志に圧倒される。秋の朝、なので、シンプルに眠りから覚める時の感覚を「誰かがわたしになる」と言っているとも考えられるが、「港に白い舟くずれ」という心象風景から、性愛の翌朝の場面をイメージした。
白い(無垢で純粋な)、舟(精緻な構造物としての身体のイメージ、また、舟は古来から女性のメタファーとして使われてきた)がくずれるのだけれど、これでいい。現代版「後朝(きぬぎぬ)の歌」として読んだ(厳密には、後朝の歌は男性から女性へ贈る歌、ではあるけれど)。
結句「秋の朝」も、一見何の変哲もない場面設定に見えるが、「あ」の音の連なりがある種の軽やかさを想起させ、「わたしになった誰か」が颯爽とまた日常に戻っていくのだな、と感じた。
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実は僕は図書館の仕事をしているので、なるべくお金をかけずに歌集を読もう!ということで、各種図書館を利用して歌集を読める方法を、気が向いたらご紹介していきたいと思います笑
『てのひらを燃やす』は各地の都道府県立図書館に所蔵があるので、お近くの公共図書館を通じて取り寄せることが可能です。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024438369-00
また、京都大学等の大学図書館にも所蔵があるので、大学生の方は、自分の通っている大学の図書館を通じて取り寄せることもできます。京都大学に所蔵があるのは、大森さんの出身大学だからですかね!
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB12559456
ちなみに僕は、神戸市立西図書館にある分を読みました。大阪周辺の公共図書館ではここくらいにしかなかったような…。今見たら貸出中になってました、アツい。https://www.lib.city.kobe.jp/opac/opacs/find_detailbook?kobeid=PV%3A7200341987&mode=one_line&pvolid=PV%3A7200341987&type=CtlgBook