Ryo Sasagawa's Blog

笹川諒/「短歌人」所属/「ぱんたれい」同人

『短歌人』

内山晶太『窓、その他』の、好きな歌10首

「短歌人」の内山晶太さんの第一歌集、『窓、その他』。六花書林、2012年。 思い出よ、という感情のふくらみを大切に夜の坂道のぼる 観覧車、風に解体されてゆく好きとか嫌いとか春の草 みずからを遠ざかりたし 夜のふちを常磐線の窓の清冽 忘れたい 夕の鏡…

橘夏生『大阪ジュリエット』

「短歌人」の橘夏生さんの第二歌集、『大阪ジュリエット』。青磁社、2016年。 川本くんが棲む大鏡あるといふガラス問屋にわれは行きたし 「川本くん」は、作者の長年のパートナーであり、「短歌人」にも所属されていた川本浩美さん(歌集に『起伏と遠景』)…

『短歌人』2019年12月号より(会員1・2欄)

図書館へ徒歩でゆくとき雨傘もレインブーツも葡萄酒のいろ(冨樫由美子) 一粒の雨水ほどの面積でいいからずっと触れていたいよ(鈴掛真) 夢に出たスウェーデン人が言うのだが「君の人生は固まったまま」(いばひでき) 魂に栞を挟む箇所はなく午前のどこも…

小島熱子『ポストの影』

「短歌人」の小島熱子さんの第五歌集、『ポストの影』。砂子屋書房、2019年。 ゆずすだちかぼすひきつれ冬が来るついでにうつつの凸凹も連れ ゆず、すだち、かぼすといった柑橘類の果実の皮の凸凹から、現実に流れる時間の凸凹を感じ取る。どこか内省的な気…

紺野裕子『窓は閉めたままで』

「短歌人」の紺野裕子さんの第三歌集、『窓は閉めたままで』。短歌研究社、2017年。 出前用のバイクはふかく傾けり さびしい夜の碇とおもふ 昼間(もしくは震災前)は町を走り回っていたバイクが、大きく傾いた状態で停められている。福島の人々の抱える精神…

小島熱子『ぽんの不思議の』

「短歌人」の小島熱子さんの第四歌集、『ぽんの不思議の』。砂子屋書房、2015年。 透明な傘がわたくしをむき出しのままに庇護して 三月の雨 「むき出しのままに庇護」という一見矛盾したフレーズが印象的。雨を防ぐために傘をさすのだが、その傘は私を完全に…

『短歌人』2019年8月号掲載歌

『短歌人』2019年8月号 20代・30代会員競詠 「夏のチェンバロ」 笹川諒 夏よ 呼びかけても返る言葉なく夏の朝には祠が似合う ゆっくりとバロックの画集開くたびどこかで街の沈む気配は どの夏も小瓶のようでブレてゆく遠近 学生ではない不思議 あまつさえ記…

『短歌人』2019年20代・30代会員競詠から好きな歌

てのひらをひらけばそこに窓がある 空がくずれてゆくのがみえる(千葉みずほ) ビルを囲む鉄骨覆う防音カバー越しから空のそこだけを見る(浪江まき子) 弟がパンツ洗って干しているそれユニクロで買ったよ俺も(葉山健介) 楽しさに偏りのある一日を味がな…

短歌人さんを読む①

『短歌人』の歌の一首評を少しずつ、時間の許す範囲で書いていこうかな、と思います。気長にお付き合いいただけましたら……。 塩で炒めただけのキャベツをつまみつつ水仙みたいな夢想に浸る/千葉みずほ 「水仙」「夢想」とあると、ギリシャ神話のナルキッソ…

『短歌人』2019年4月号の、好きな歌10首(会員欄)

子と夫に呼ばれ続ける一生の吹雪の窓に咲く君子蘭(小原祥子) あを以外アリスのドレスを何色に塗るか悩みて過ごすひねもす(岡本はな) 食塩水ばかり作らせる教科書の文章題をココアに代える(柳橋真紀子) ことば言葉ことばの合間に山茶花がちらほら咲いて…

『短歌人』2019年3月号の、好きな歌10首(会員欄)

ひとしきり記憶は荒み湯の中の手は翌日の雨の音する(高良俊礼) 去年今年朝にはパンとミルクティーこころのうちの短き祈り(冨樫由美子) 願わくは現役のまま死にたいと明るく語る暮れの中華屋(いばひでき) 見たことのないやや低い標識を見終える前にバス…

『短歌人』2019年2月号の、好きな歌10首(会員欄)

秋深く明朝体のこころもてクラリネットの音色を聴けり(冨樫由美子) 道路工事の脇の花壇の花のうえ上着がのっているたたまれて(浪江まき子) 合格も赤点もない日々のため今夜はカレーライスをつくる(葉山健介) 皆が皆じぶんは悪くないという顔をならべた…

冨樫由美子『草の栞』

「短歌人」の先輩、冨樫由美子さんの第一歌集『草の栞』を読みました。(探していたのですがなかなか手に入らず、短歌の友人から貸していただきました。) 同じかたちの若草色の扉(どあ)ならぶ白い廊下のゆめをまたみる 夢の情景の説明が、すでに絵画にな…

『短歌人』2019年1月号の、好きな歌10首(会員欄)

旅人の目をして生きてゐることをまぶかにかぶる帽子に隠す(冨樫由美子) 抒情とは震えのことに他ならず触れて良いものと悪いものとの(高良俊礼) 若い子に道を譲れと言われて泣いた長い氷河期の終わりに(国東杏蜜) 吉田君ときけば私は一番に牛のあの仔を…

『短歌人』2018年12月号の、好きな歌10首(会員欄)

秋という祈りの中に紫木蓮はぐれて一枝間の抜けた空(高良俊礼) 毎晩の眠りが日々の趣味となり安らぎゆくは死の練習か(いばひでき) ひまわりじゃなかったダンデライオンのたてがみしわがれはててもう、秋(鈴木杏龍) 甥っ子が庭でバットを振っている何か…

『短歌人』2018年11月号の、好きな歌10首(会員欄)

つぎつぎと割れゆくせんたくばさみさすひのひざしれきしとは石と灰(鈴木杏龍) コーヒーの水面は揺れてその底にかがやく闇があり更に雨(高良俊礼) 三年間一度たりとも使わずに埃をかぶる穴あけパンチ(上村駿介) 角を曲がります、と心につぶやいて角曲が…

『短歌人』2018年10月号の、好きな歌10首(会員欄)

少年が光線(ひかり)の中をよぎり来てわれにものいう双腕を垂り(北岡晃) ひまわりの背丈こえたらあとはもう、ただ、もう、ひとりびとりの道途(鈴木杏龍) 出身を聞けば「火星」と真剣に答えるような男の寝顔(鈴掛真) 満ちてゆく今朝の木漏れ日葉脈を巡…

川本浩美『起伏と遠景』

かつて「短歌人」に所属されていた川本浩美さんの遺歌集、『起伏と遠景』を読んだ。あとがきによると、現在僕がお世話になっている関西歌会の中心的なメンバーでもあったとのことである。歌集全体に独特の寂寥感が漂っていて、大阪の街や自分自身に関する事…

『短歌人』2018年9月号の、好きな歌10首(会員欄)

だれもが舌をうまく収めてくちびるを閉じている はつなつのバス停(鈴木杏龍) とうめいな千の小鬼が駆け抜けた青田よこはれた今日の前触れ(岡本はな) 慰めは言わなくていい絵葉書のマトリョーシカになみだを描く(たかだ牛道) 偶然が重なっていく 低速で…

『短歌人』2018年8月号の、好きな歌10首(会員欄)

ろくがつのいきのしやすい肺胞をきしませて 誰 まっていたのは(鈴木杏龍) 前後左右を白きタイルに囲まれてわれの思考は四角くなりぬ(太田青磁) 炊飯器の予約ボタンが点りおりいいかもしれぬ独りっきりは(小原祥子) これの世の父のかぶりしソフト帽ひそ…

『短歌人』2018年20代・30代会員競詠から好きな歌

手をつなぎゆつくり進む子とふたり紋白蝶に追ひ越されをり(桃生苑子) 考えの差し出し方のうつくしいあなたの真似で五月を抜ける(相田奈緒) 犬をイヌ用キャリーで運ぶ人がいていつもより強くつり革を持つ(浪江まき子) 乳酸菌一億個 個? 個だそうです …

近藤かすみ『雲ケ畑まで』

「短歌人」の関西歌会でもお世話になっている、近藤かすみさんの『雲ケ畑まで』を読んだ。 今日はとてつもなく暑い日だったけれど、読んでいると気持ちが涼しくなるような、背筋がシュッとするような、そんな一冊だった。以下、特に好きな歌について。 ・忘…

『短歌人』2018年7月号の、好きな歌10首(会員欄)

今朝ひとつ覚悟のようなかなしみが風に揺れたりテッポウユリよ(高良俊礼) 降る音が雨と気づけり薄闇の小さき神社に我が耳ふたつ(古賀大介) あゆみよることですか はい。がいじんの配るカレーのビラも受け取る(鈴木杏龍) 忘れずにいてほしいのは約束じ…

『短歌人』2018年6月号の、好きな歌10首(会員欄)

異国では誰かがひとり涙する君がくしゃみをひとつするとき(鈴掛真) 鈍感になればなるほど浮いているような心地のカフェテリア内(小玉春歌) 見えているもののすくなさ 卓上の春雨炒めぎらぎらし過ぎ(相田奈緒) 戸口にて夢見るやうに取り落とす。鍵に映…

『短歌人』2018年5月号の、好きな歌10首(会員欄)

飲食は娯楽にあらずひとの子も なまごみしるがくろきすじひく(鈴木杏龍) 水を盛る器としての手の窪みふたつ合わせて顔洗いおり(たかだ牛道) 朝が来て帰ってしまうのがいやでワイシャツのボタンを取った 全部(古賀たかえ) 有限の私の中にまたひとつ新規…

『短歌人』2018年4月号の、好きな歌10首(会員欄)

病院の待合おほかた診察を終へてわれのみわが犬待てり(伊地知順一) 今朝の雨ほそく光りて花に降る君も私を通り過ぎたり(高良俊礼) にんげんがいない よ みちにめがね屋のナイロン製のはたのはためき(鈴木杏龍) 熱湯がシンクを鳴らし焼いてないのに焼き…

水について

先日、短歌関係の友人と話していて、「短歌によく登場させる言葉とかモチーフって何?」という話になった。僕が普段から短歌を作ることに対して、あまり能動的じゃない(紙やPCに向かって、さあ今から短歌を作るぞ、ということはほとんどない。残念ながら、…

『短歌人』2018年3月号の、好きな歌10首

武器と楽器 枝分かれしてそれぞれに求めてゆけり逢ふべきひとを(阿部久美) 春寒の排水溝にはあかぐろき薔薇のはなびらみずに動けり(内山晶太) やむきみとしりつつ断てばそれきりの冬椿 はるはやくこないか(鈴木杏龍) 金魚たちこつりこつりと喉の奥にあ…

『短歌人』2018年2月号の、好きな歌8首

万華鏡ひとつ廻してあざやかな藍のうらがは過去となしたり (三島麻亜子) 祈る人はやがて小さな石になりその石をまた祈る人あり (古賀大介) なぜだろう昨日と似すぎている今日 時間感覚分からなくなる (上村駿介) いつからかきみ棲みたればわが胸の内た…